何年か前から、ボクシングとか総合格闘技を観るのが好きになった。
運動をするのも好きだから、実際に自分で格闘技をやってみたいとずっと思ってた。
友達にお願いして、一緒に総合格闘技のジムの体験に行ったけど、実際に入会するのは、さすがにハードルが高いし、お金も高い。
でもさすがに、やりたいとずっと思いすぎだったので、1年以上あと、意を決して、そのジムに入会。
キックボクシングを中心にやった。
ある程度味わって満足したというのと、やはりお金の面で3か月くらいでやめた。
楽しかった。
トレーニングでは、コーチにミットをもってもらって、殴ったり蹴ったり、というのの他に、実際に対人で軽めに戦う、マススパーリングというのがある。
わいがよく行った昼過ぎ~夕方は、男の大人よりも、子供や主婦が多い時間帯。
大体、かなり軽めなスパーリングになるのだけど、およそ1名、やたらと強く拳を振るってくる主婦がおった。
閑静な高級住宅街に住む、高給取りの旦那を持つ専業主婦。
庭付きの小ぎれいな一戸建てを構え、夫婦円満、家族団らん、憧れの主婦像、傍からは、そう見えても仕方がないだろう。
しかしその実には、もう元には戻らない、泥沼、険悪な夫婦関係があった。
自身の心にくすぶる、行き場のない負の衝動、どす黒いエネルギー。
ついに見つけた、怒りのはけ口。
総合格闘技ジムである。
健康な成人男性が相手とあれば、少しばかり強く打ってもバチは当たるまい。
その拳、私の頬をかすめるその主婦の拳には、憎悪、憤怒、そして哀情を、明白に感じ取ることができた。
私は思う。
痛い。
それは、肉体的な痛覚によらない、別の痛みである。
逃れられぬ運命。
光があれば影もある。
この世の摂理にもだえる、儚い命。
私は同情を胸に、仕返しにと少し強めに打ち返すのだった。